クロス通貨ペアの**スプレッド裁定(アービトラージ)**は、理論上は「ほぼリスクなし」で利益を狙える取引ですが、実務ではかなり難易度が高い手法です。順を追って、仕組み・計算・実務上の課題まで詳しく説明します。
目次
1. クロス通貨ペア・スプレッド裁定とは
定義
共通通貨を持つ複数の通貨ペア間で生じる理論価格と実勢価格のズレを利用する裁定取引です。
代表例:
- USD/JPY
- EUR/USD
- EUR/JPY(=クロス通貨)
理論的には次が成り立ちます:
EUR/JPY = EUR/USD × USD/JPY
この関係が崩れた瞬間に、
割高な通貨ペアを売り、割安な通貨ペアを買うことで利益を狙います。
2. 基本的な仕組み(3通貨アービトラージ)
例:理論価格との乖離
仮に以下のレートがあるとします(簡略化):
- EUR/USD = 1.1000
- USD/JPY = 150.00
→ 理論値
EUR/JPY = 1.1000 × 150.00 = 165.00
ところが市場で:
- EUR/JPY = 165.20
となっていれば、
- EUR/JPY → 割高
- EUR/USD・USD/JPY → 割安
取引構成(同時に実行)
- EUR/JPY を売る
- EUR/USD を買う
- USD/JPY を買う
→ 最終的に為替リスクは相殺され、差額が利益になる理屈です。
3. スプレッド裁定と呼ばれる理由
実際には**スプレッド(売値・買値差)**が存在します。
裁定条件は次のようになります:
(EUR/USDのAsk × USD/JPYのAsk) < EUR/JPYのBid
この関係が成り立つ場合のみ、
スプレッド込みでも利益が残る裁定機会です。
4. 実務で難しい理由(重要)
① スプレッドが非常に厳しい
- クロス通貨はすぐに裁定される
- 機関投資家・HFTが常時監視
- 個人が見つけられる歪みはほぼ瞬間的
② 約定リスク(レッグリスク)
3つの取引を完全に同時に成立させないと:
- 一部だけ約定
- 価格変動で損失発生
→ 個人投資家には致命的
③ 取引コスト
- スプレッド
- 手数料
- スリッページ
これらで利益が簡単に消えます。
④ 高速環境が必須
- ミリ秒単位の執行
- VPS・API・アルゴリズム取引が前提
5. 実際に使われるのは誰か
- 銀行ディーラー
- ヘッジファンド
- HFT(高速取引業者)
→ 個人投資家が安定して行うのはほぼ不可能
6. 個人投資家向けの現実的な応用
① クロス通貨の「歪み」を相場観に使う
例:
- EUR/USD と USD/JPY が上昇しているのに
- EUR/JPY が弱い → 円買い圧力の兆候
② 裁定「風」ペアトレード
完全裁定ではなく:
- EUR/JPY と(EUR/USD+USD/JPY)の乖離が
- 統計的に戻ることを期待する
→ 統計的アービトラージとして中期で使う
7. 数式でまとめると
理論乖離率:
乖離率 = EUR/JPY ÷ (EUR/USD × USD/JPY) − 1
- 正 → EUR/JPY 割高
- 負 → EUR/JPY 割安
8. まとめ(重要ポイント)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 理論 | 為替の三角関係 |
| 魅力 | 理論上は低リスク |
| 現実 | 個人ではほぼ不可能 |
| 活用法 | 相場分析・統計手法 |
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