IFC Marketsの指数×為替の “スプレッド先行指標” アルゴについて

指数 × 為替 の “スプレッド先行指標” アルゴ」は、インデックス(株価指数等)と為替の相互関係を利用して一方が他方に先行する兆候(スプレッドの変化)を捉え、予測信号に変える高度な統計・機械学習+実行系の組合せです。以下、理論から実装・検証・運用まで実務で使えるレベルで整理します(日本語で段階的に)。

目次

1) コンセプト(要点)

  • 「スプレッド先行指標」とは、**(指数の値動き)−(為替の値動き)**や二者間の比率/差分(=スプレッド)が、ある時間ラグで相手方の値動きを予告する性質を利用する指標。
  • 目標:スプレッドの統計的先行性を検出し、それを売買シグナルに変換して期待利得を得る。
  • 応用例:株式インデックス先行 → 為替方向性の予測、または為替先行 → インデックスの短期ポジション決定。

2) 基本データと前処理

  • 必須データ(高頻度にするほど良い):
    • 指数(例:NAS100, SPX500, JP225)のティック/1分/5分足価格
    • 為替(例:USDJPY, EURUSD)の同期間価格
    • 出来高・ティックボリューム(可能なら)
    • スプレッド(ブローカー提示)・約定価格(実行性評価)
    • マクロ指標時刻(フィルタ用)
  • 前処理:
    • 同一タイムスタンプに揃える(UTC or JST固定)
    • 欠損補完(線形補間は短時間のみ)
    • リターンに変換(対数リターンが一般的)
    • ノイズ除去(短期EMAで平滑化は後工程で検討)
    • 取引コスト・スリッページの注入(バックテストで必須)

3) 指標(特徴量)設計

(A)基本スプレッド・定義

  • 単純差: spread_t = index_price_t - FX_price_t * κ(κはスケール調整)
  • 比率: ratio_t = index_price_t / FX_price_t
  • リターンスプレッド(好ましい): r_spread_t = r_index_t - α * r_fx_t
    • r: log-return、αはボラ比で正規化(下記)

(B)ボラ補正・正規化

  • 正規化済みスプレッド(Z-score): z_t = (r_spread_t - μ_window) / σ_window μ/σ はローリング平均・標準偏差(例:20〜120期間)

(C)ATR変動比率やボラ比で重み付け:

  • α = std(r_index_window) / std(r_fx_window) でスケールを合わせる

(D)時間差特徴(ラグ):

  • いくつかのラグを生成: z_{t−k} (k = 1..K)
  • ローリング相互相関(rolling cross-corr)を特徴にする

(E)高次特徴:

  • 差の勾配(Δz)・加速度(Δ^2 z)
  • 変化率(z_t / μ_window)
  • 出来高/ティック数と組合せたボリューム加重指標

4) 先行性(Lead-Lag)検定方法

  • クロスコリレーション(CCF):複数ラグの相互相関を計算し、どのラグで最大(正または負)になるか確認。
  • グレンジャー因果検定(Granger causality):統計的に「スプレッドが為替の将来を説明するか」検定。
  • 情報理論手法(Transfer Entropy):非線形の先行性検出に有効。
  • 回帰予測寄与(lagged regression)r_fx_{t} = β0 + Σ_{k} β_k * z_{t−k} + ε_t の有意性確認。

実務では複数手法を併用。Grangerで多数の有意ラグが出れば、実用性は高まるが安定性(市場環境依存)に注意。

5) シグナル化(単純→複雑)

  • 単純閾値型:
    • If z_{t−k} > +h ⇒ ショート/ロングどちらか(設計次第)
    • h は例えば 1.5〜2.5(標準偏差)
  • 予測回帰/分類:
    • 目的変数 y_t = sign(r_fx_{t+H}) または r_fx_{t+H} を予測
    • モデル:線形回帰、LASSO、XGBoost、LightGBM、LSTM(時間依存があれば)
  • 確率出力+閾値:
    • モデルの確率を利用し、閾値越えでエントリー(期待値が正の閾値で調整)
  • リアルタイム確率更新(カルマンフィルタ等)で信頼度を滑らかに

6) ポジション設計・ヘッジ

  • 単純ポジション:FXのみ、または指数のみ(信号が対向資産の予想を示す場合)
  • ペアヘッジ型:指数と為替の両方でヘッジを組む(相関の変化を抑制)
    例:モデルが「指数先行で円高(USDJPY下落)を予測」 → USDJPYショート+小額で指数ショート(ヘッジ目的)
  • ロット調整:ボラティリティ・β(回帰係数)で動的にサイズ決定(等リスク貢献)
  • タイムホライズン H を固定し、保有時間は H またはシグナル反転でクローズ

7) リアルタイム実行フロー(概略)

  1. データ受信・同期(index, fx, spreads)
  2. ローリング統計更新(mean, std, α 等)
  3. 指標・特徴量計算(z, lags, Δ等)
  4. 予測モデル評価(確率/推定値)
  5. シグナル生成(閾値・ポジションサイズ計算)
  6. 発注(成行 or 指値)→ 約定確認 → ポジション管理(トレーリングSL等)
  7. ログ・監視(パフォ・リスク)

(低レイテンシ環境ならWebSocket/TCPでティック受け取り、C++/Rustで執行。裁量系はPythonで十分。)

8) バックテスト設計(重要)

  • 時系列分割:訓練/検証/検査(walk-forward)で再現性確認
  • スリッページ&手数料モデル必須(ブローカーの実際のスプレッド固定/可変を混入)
  • 指標時の除外or別戦略(データにより振る舞いが変わる)
  • リアルティック・ティック差分での再現(5分足だけで評価すると短期性は過小評価)
  • シャープ、トレードあたり期待値、最大ドローダウン、プロフィットファクター、勝率、平均損益、持ち時間を計測

9) 評価指標と安定性チェック

  • 主指標:Annualized Return, Sharpe, Max Drawdown, Calmar Ratio
  • トランザクション指標:Trades per period, Avg P/L per trade, Avg Duration
  • 安定性:Walk-forward results, Rolling Sharpe, Bootstrap resampling, Monte Carlo P/L paths
  • 経済的有意性:事後的に手数料込みでも正の期待値があるか

10) 実装(Python例:機能抽出+Granger検定+簡易ロジ回帰)

以下は概念実装(pandas/statsmodels/sklearn)。実行前にデータとライブラリを用意してください。

# requirements: pandas, numpy, statsmodels, sklearn
import pandas as pd
import numpy as np
from statsmodels.tsa.stattools import grangercausalitytests
from sklearn.linear_model import LogisticRegression
from sklearn.preprocessing import StandardScaler

# df: DataFrame with columns ['time','index','fx']
df.set_index('time', inplace=True)
# ログリターン
df['r_index'] = np.log(df['index']).diff()
df['r_fx'] = np.log(df['fx']).diff()

# ボラ比でリスケール
win = 60
df['vol_index'] = df['r_index'].rolling(win).std()
df['vol_fx'] = df['r_fx'].rolling(win).std()
df['alpha'] = df['vol_index'] / (df['vol_fx'] + 1e-9)

# リターンスプレッド(正規化)
df['r_spread'] = df['r_index'] - df['alpha'] * df['r_fx']
df['z'] = (df['r_spread'] - df['r_spread'].rolling(win).mean()) / (df['r_spread'].rolling(win).std() + 1e-9)

# Grangerテスト:z が r_fx をグレンジャーするか(最大ラグ L)
L = 10
test_df = pd.concat([df['r_fx'].dropna(), df['z'].dropna()], axis=1).dropna()
grangercausalitytests(test_df[['r_fx','z']], maxlag=L, verbose=True)

# 特徴量作成(ラグ)
K = 5
for k in range(1, K+1):
    df[f'z_lag_{k}'] = df['z'].shift(k)

# 目的変数:将来Hステップのfxリターンが正か否か
H = 5
df['y'] = (df['r_fx'].shift(-H) > 0).astype(int)

# 学習データ作成
df_train = df.dropna()
X = df_train[[f'z_lag_{k}' for k in range(1,K+1)]].values
y = df_train['y'].values

sc = StandardScaler()
Xs = sc.fit_transform(X)
clf = LogisticRegression()
clf.fit(Xs, y)

# リアルタイムでの利用例
def predict(signal_vector):
    xv = sc.transform([signal_vector])
    p = clf.predict_proba(xv)[0,1]
    return p  # 例えば p > 0.6 でロングシグナル

注意:上は教育目的の簡易例。実運用では時系列CV、ウォークフォワード、過学習防止やラグ確認を必須にしてください。

11) リスク管理(必須)

  • 1トレードあたりのリスク上限(例:資本の0.25%)
  • ポジションサイズはボラティリティで正規化(等リスク)
  • 最大同時ポジション数・最大日次ドローダウンで自動停止
  • 指標発表やグローバルイベントはポジション縮小or戦略停止
  • モデル退化検知(シグナル期待値低下 → 自動的に学習更新or停止)

12) よくある落とし穴(実務注意点)

  • ルックアヘッド/データリーク:未来情報が混入しないように厳格に管理
  • 非定常性:リレーションは時期により変わる(危機時に崩壊する可能性大)
  • スプレッド変動と約定問題:理論上先行性あっても実際の執行コストで消える
  • サンプルサイズ不足:短期間で高次元モデルは過学習しやすい
  • 相関崩壊(regime shift):中央銀行・大ニュースで全く関係性が変わる
  • 繁雑なレバレッジ管理:ボラに応じた適正レバレッジが必要

13) 実務的チューニングと運用の流れ(推奨)

  1. 小さな範囲(1〜3銘柄)でプロトタイプを作る
  2. 長期バックテスト(過去5年以上、出来れば10年)+ウォークフォワード
  3. コスト感度分析(スプレッド・スリッページを増やしても期待値が残るか)
  4. リアルマネー前にライブ・シグナルのペーパートレード(2〜3ヶ月)
  5. 運用ルール化(停止条件・リトレーニング周期)
  6. 定期的なリキャリブレーション(月次or週次)

14) まとめ(実務アクション)

  • まずは簡単なr_spreadのZ-score → ラグ回帰 → Granger検定で「先行ラグの存在」を確認。
  • 先行ラグが堅牢なら、確率モデル(ロジスティック等)に落とし込み、閾値で売買。
  • 必ず手数料/スリッページを入れた上でバックテストし、ウォークフォワードで安定性を確認する。
  • 最終的に実行系(低遅延or裁量)+堅固なリスク管理に落とし込む。

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