JadeFOREXの相関ペア裁定+ポートフォリオ・ヘッジ戦略

相関ペア裁定+ポートフォリオ・ヘッジ戦略」は、裁定取引(アービトラージ)とリスクヘッジを組み合わせたマーケットニュートラル型の戦略で、ボラティリティや方向性に依存せず安定した収益を狙うプロフェッショナル戦略です。

以下では、
① 概要と理論背景
② 相関ペア裁定の構造
③ スプレッドの算出・統計的判定
④ ポートフォリオ・ヘッジの考え方
⑤ 実践的な例
⑥ リスク管理・改善アイデア
を順に解説します。


目次

🧭 1. 戦略の概要と目的

🔹 基本アイデア:

  • 価格が高い相関関係にある2銘柄(または2資産)をペアとして選ぶ
  • その価格差(スプレッド)が平均から乖離したタイミングで逆張り
  • スプレッドが平均に戻る(収束)ことで利益を得る
  • 同時に、全体のポートフォリオで方向性リスク(β)をヘッジ

🔹 メリット:

  • 市場全体のトレンドに左右されにくい(=マーケットニュートラル
  • 短期・中期どちらにも応用可能
  • 統計的根拠に基づく戦略(再現性が高い)

⚙️ 2. 相関ペア裁定の構造

ステップ 1️⃣:銘柄選定

  • 高い相関を持つペアを探す(過去相関係数 ≧ 0.8 推奨)

例:

市場代表的な相関ペア
FXEUR/USD vs GBP/USD、AUD/USD vs NZD/USD
株式コカ・コーラ vs ペプシ、トヨタ vs ホンダ
仮想通貨BTC vs ETH、SOL vs AVAX

ステップ 2️⃣:スプレッド算出

2銘柄 X,YX, YX,Y の価格から「スプレッド」を作ります。

単純スプレッド:

St=Xt−β⋅YtS_t = X_t – \beta \cdot Y_tSt​=Xt​−β⋅Yt​

ここで β\betaβ は過去の回帰係数(例:最小二乗法)
→ 「XとYの価格関係」が1対1でない場合に調整するため。

回帰によるβ算出:

Xt=α+βYt+ϵtX_t = \alpha + \beta Y_t + \epsilon_tXt​=α+βYt​+ϵt​


ステップ 3️⃣:平衡状態(平均回帰)を検出

スプレッド StS_tSt​ が平均 μ\muμ からどの程度乖離したかを指標化。 zt=St−μσz_t = \frac{S_t – \mu}{\sigma}zt​=σSt​−μ​

  • zt>+2z_t > +2zt​>+2:上方向に乖離 → X売り / Y買い
  • zt<−2z_t < -2zt​<−2:下方向に乖離 → X買い / Y売り
  • zt≈0z_t \approx 0zt​≈0:収束 → 決済

📉 3. 統計的な判定とフィルタリング

(1)相関・共整合性(Cointegration)

  • 相関が高くても「共整合(Cointegration)」がなければ収束しません。
  • エングル=グレンジャー検定や**ADF検定(単位根検定)**で確認。

→ 共整合しているペアだけ採用するのが重要。

(2)ボラティリティ調整

  • σ(標準偏差)をリアルタイム更新
  • 乖離幅が統計的に有意かを確認
  • ATRやz-scoreを組み合わせて「強い乖離のみトレード」

🧩 4. ポートフォリオ・ヘッジの設計

相関ペア裁定を複数組み合わせ、ポートフォリオ全体でマーケットニュートラル化します。

構成イメージ:

ペアロングショート相関方向βヘッジ比率
ペア1銘柄A銘柄B正相関1:β₁
ペア2銘柄C銘柄D正相関1:β₂
ペア3BTCETH正相関1:β₃

→ 全体での「市場β(ベータ)」が0に近づくようポジション調整。

βヘッジの考え方:

βportfolio=∑iwi⋅βi≈0\beta_{portfolio} = \sum_i w_i \cdot \beta_i \approx 0βportfolio​=i∑​wi​⋅βi​≈0

(w_i = 各ポジションのウェイト)

これにより、株式市場全体や為替トレンドの影響を中和し、
「スプレッドの収束」だけで利益を狙う構造を作ります。


💡 5. 実践的な例

例:USDJPY vs EURJPY(FX)

  • 高相関(過去相関 ≈ 0.9)
  • どちらも「円」を含むクロス通貨で構造的に連動

手順:

  1. 直近90日データで回帰: USDJPY=α+β⋅EURJPY+ϵUSDJPY = \alpha + \beta \cdot EURJPY + \epsilonUSDJPY=α+β⋅EURJPY+ϵ 仮に β = 1.15 と算出されたとする。
  2. スプレッド算出: St=USDJPY−1.15×EURJPYS_t = USDJPY – 1.15 \times EURJPYSt​=USDJPY−1.15×EURJPY
  3. Zスコア算出: zt=St−μσz_t = \frac{S_t – \mu}{\sigma}zt​=σSt​−μ​
  4. 売買ロジック:
    • z > +2 → USDJPY売り / EURJPY買い
    • z < -2 → USDJPY買い / EURJPY売り
    • z → 0で決済(収束)
  5. 各ペアのポジションサイズ調整:
    • 通貨単位 × β比率でヘッジ(ロットを調整)
    • 例:USDJPYを1ロット売る → EURJPYを1.15ロット買う

⚖️ 6. リスク管理とリターン最適化

主なリスク:

リスク説明対策
構造的乖離(相関崩壊)市場環境変化(例:金融政策差)相関係数モニタリング(一定以下で停止)
βの変化関係性の変化ローリング回帰でβ更新
スプレッド拡散の持続収束までの時間が想定外最大乖離幅で強制損切り(z>±3.5など)
レバレッジ過多同時ポジション過大ボラティリティ・リスクベースでロット調整

📊 7. 改良・応用アイデア

  • 機械学習を利用した動的ペア選択
    • 例:ランダムフォレストやPCA(主成分分析)で相関クラスタを抽出
  • スプレッドのボラティリティ制御(GARCHモデル)
    • 不安定期にエントリー抑制
  • クロスマーケット裁定
    • 株指数 × 先物 × ETF 間でのアービトラージ
    • 例:NASDAQ先物とQQQ ETF
  • トレンド・ブレイク検出との組み合わせ
    • トレンド中は裁定休止、レンジ期のみ稼働


🧠 まとめ

要素内容
戦略目的相関する資産の乖離を利用して、平均回帰から利益を得る
主要ツール回帰分析、相関係数、共整合性検定、zスコア
成功の鍵正しいペア選定、動的β調整、マーケットニュートラル構築
応用機械学習によるペア選定、マルチアセット裁定、AIヘッジ最適化
目次