XMのマルチペア相関乖離+統計的裁定戦略について

マルチペア相関乖離+統計的裁定戦略(Multi-Pair Correlation Divergence & Statistical Arbitrage Strategy)」は、
金融工学・数量分析の分野で使われる**ペアトレード(Pair Trading)やStat-Arb(統計的裁定取引)の発展形で、
複数の通貨ペア(または関連資産)間の
統計的な価格関係のズレ(乖離)**を狙って利益を取る戦略です。


目次

🔶 1. 戦略の基本概念

この戦略の核は:

相関して動くべき通貨ペアが、一時的に乖離したとき、その乖離が戻ることを狙って同時建てを行う

というものです。

つまり、トレンド方向を予測するのではなく、
**価格関係の“統計的な正常化(mean reversion)”**を利用します。


💡 例で理解する

たとえば:

  • EURUSD と GBPUSD は通常、非常に高い正の相関(+0.8〜+0.9)があります。
  • ある瞬間、EURUSD が急騰したのに、GBPUSD は追随しなかった。
    → 一時的に「相関の乖離」が発生。

そのとき、

  • EURUSD を売り、GBPUSD を買う(相関の再収束を狙う)

価格関係が元に戻ったら、両方のポジションを同時にクローズして利益を確定します。


🔶 2. 戦略構造の基本フレーム

フェーズ内容
① 相関分析過去の一定期間(例:90日、240時間など)で各通貨ペアの相関係数を算出
② 乖離検出リアルタイムで価格比・スプレッドを監視し、統計的に有意な乖離を検出
③ エントリー乖離が閾値を超えたらロング・ショートを同時に建てる
④ リバージョン相関が正常範囲に戻ったら同時クローズ
⑤ 統計的最適化ペア組み合わせと閾値を継続的に更新

🔶 3. 使用する代表的な統計指標

指標内容用途
相関係数(ρ)-1〜+1の間の関係性指標通貨ペア選定に使用
β(ベータ値)感応度係数(回帰傾き)ヘッジ比率算出に使用
スプレッドSpreadt=PA−β×PBSpread_t = P_A – β \times P_BSpreadt​=PA​−β×PB​乖離の実測値
ZスコアZt=Spreadt−μσZ_t = \frac{Spread_t – μ}{σ}Zt​=σSpreadt​−μ​乖離の標準化指標
p値・ADF検定共積性検証長期的にリバージョン性があるか確認

🔶 4. トレード条件の定義(実践レベル)

▶ エントリー条件(Zスコア法)

  • 対象ペア(例:EURUSD & GBPUSD)のZスコアを計算
  • Zスコアが +2σ 以上 → 乖離上方(EURUSD高すぎ) → EURUSD売り & GBPUSD買い
  • Zスコアが −2σ 以下 → 乖離下方(GBPUSD高すぎ) → GBPUSD売り & EURUSD買い

▶ エグジット条件

  • Zスコアが 0(平均値)に戻る or ±0.5σ以内に収束
  • または時間経過(24〜48時間で自動クローズ)

▶ ポジションサイズ(β調整)

各通貨の感応度を合わせるため、

  • ヘッジ比率: LotGBPUSD=βEURUSD,GBPUSD×LotEURUSD\text{Lot}_{GBPUSD} = β_{EURUSD,GBPUSD} \times \text{Lot}_{EURUSD}LotGBPUSD​=βEURUSD,GBPUSD​×LotEURUSD​

🔶 5. 実例:EURUSD & GBPUSD の統計的裁定

条件
過去相関係数+0.91
β1.15
平均スプレッドμ0.0008
標準偏差σ0.0004
現在スプレッド0.0016 → +2σ超え

👉 エントリー:

  • EURUSD 売り 1ロット
  • GBPUSD 買い 1.15ロット

→ Zスコアが0に戻った時点で両方決済。

平均リターン:+0.0008
取引頻度:週5〜10回
勝率:約65〜75%(ヒストリカルデータによる)


🔶 6. マルチペア運用(拡張構造)

単一ペアだけでなく、
複数の通貨ペアを同時にモニタリングして統計的裁定を行うのがマルチペア運用です。

代表的なマルチペア相関群

グループ通貨ペア備考
欧州系EURUSD / GBPUSD / EURGBP高相関・流動性高
ドルインデックス系EURUSD / USDJPY / GBPUSD / AUDUSDUSD強弱の共通因子利用
クロス円群EURJPY / GBPJPY / AUDJPYJPY共通基軸利用
コモディティ系XAUUSD / XAGUSD / USOIL原資産連動性活用

→ 各グループでペア相関>0.8を条件に採用。


🔶 7. システム的実装モデル

  1. データ入力層
    • 各ペアのティックまたは1分足価格データ取得
    • 過去N期間(例:500本)の移動ウィンドウで更新
  2. 相関・回帰層
    • 直近データでβと相関係数を計算(OLS回帰)
  3. 乖離検出層
    • Spread = A – βB
    • Z = (Spread – μ) / σ
    • |Z| > 2 → シグナル発生
  4. リスク管理層
    • 各ペアのレバレッジ調整
    • 同時ポジション数制限(例:最大3組)
  5. 実行層
    • 自動発注(API or EA)
    • 逆Z到達 or 時間切れでクローズ

🔶 8. 戦略パフォーマンス特性

項目特徴
タイプ統計的リバージョン(平均回帰型)
勝率60〜75%(相関安定期)
RR比約1:1〜1:1.5(ただし高頻度)
取引頻度1日あたり数回〜十数回(マルチペア)
ドローダウン小さい(ポートフォリオ効果)
市場環境レンジ・方向性不明瞭時に強い

🔶 9. 有効マーケット環境と注意点

市場状態有効度理由
レンジ・低ボラティリティ★★★★★相関乖離が戻りやすい
トレンド相場(USD片方向)★★乖離が戻らず捕まる危険
指標発表・突発イベント統計的関係が一時崩壊
相関変化局面(Regime Shift)⚠️ペア間関係が消失するため回避必須

🔶 10. リスク・マネジメントの要点

  • 最大乖離Zスコア制限:|Z| > 3 はトレード中止
  • ストップロス:Zが3σ以上で逆行した場合
  • ヘッジ比率(β)調整でボラティリティ均衡
  • 分散投資:同時3〜5ペア運用で安定化
  • 週次リバランス:相関・βを再計算

🔶 11. 応用:マルチペア相関クラスターモデル

より上級者向けには、
「通貨ペアの相関ネットワーク」をクラスタリングしてグループごとに裁定を行う方法があります。

  • 手法:階層的クラスタリング(Hierarchical Clustering)
  • 指標:相関距離 d=1−∣ρ∣d = 1 – |ρ|d=1−∣ρ∣
  • 結果:相関の高い通貨群を自動的に抽出
  • 各クラスター内で Zスコア監視 → 自動ヘッジトレード

👉 実質的には「相関ネットワーク裁定(Network Stat-Arb)」になります。


🔶 12. 戦略まとめ

要素内容
戦略名マルチペア相関乖離+統計的裁定戦略
タイプ平均回帰型・マーケットニュートラル戦略
主な分析軸相関・回帰・Zスコア
エントリートリガー
エグジットZ → 0付近
ポジション構造同時ロング+ショート(β調整)
推奨ペアEURUSD×GBPUSD, USDJPY×CHFJPY, XAUUSD×XAGUSD
強み市場方向に依存しない安定収益
弱み相関崩壊リスク・レバ制御が難しい

🔶 13. 補足:EA/システム化における推奨構成

  1. バックテスト期間:過去1〜2年(1時間足 or 15分足)
  2. パラメータ最適化
    • Zスコア閾値:1.5〜2.5
    • 期間ウィンドウ:100〜300
    • β更新周期:毎週 or 200バーごと
  3. 評価指標
    • Sharpe Ratio(0.8以上)
    • 最大DD(10%以下)
    • Profit Factor(1.3以上)
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