ティックベース・スプレッド反転戦略(Tick-based Spread Reversion Strategy)は、板情報や約定ティックの短期的な歪みが平均に回帰するという性質を利用した、**超短期(スキャルピング〜HFT寄り)**のトレーディング戦略です。主に先物・FX・暗号資産など、ティックデータが取得できる市場で使われます。
以下、体系的に説明します。
目次
1. 基本コンセプト
核となる考え方
- ティック単位の売買圧力の偏りによって
一時的に「不自然にスプレッドが拡大 or 片側に傾く」 - しかし流動性がある市場では
👉 短時間で元の均衡に戻る(反転する)
これを狙って、
- 拡大したスプレッド → 縮小方向に逆張り
- 一時的な買い(売り)優勢 → 反対側にエントリー
2. 「ティックベース」とは何か
ティックデータの要素
- 約定価格
- 約定方向(買い成行 / 売り成行)
- 約定サイズ
- 約定時刻(ミリ秒〜ナノ秒)
ティックベース指標の例
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| Tick Imbalance | 買いティック − 売りティック |
| Tick Volume | 一定時間内の約定数 |
| Signed Volume | 売買方向付き出来高 |
| Microprice | 板の厚みを考慮した理論価格 |
3. スプレッド反転のメカニズム
スプレッドとは
- Bid(買い気配)と Ask(売り気配)の差
- または「理論価格 vs 約定価格」の乖離
典型的な歪み発生パターン
- 大口の成行注文が連続
- 片側の板が一時的に薄くなる
- スプレッドが異常拡大
- 流動性供給者(MM)が戻る
- 価格が反転
4. 代表的な戦略ロジック
シンプルな例(概念)
if (短時間のBuy Tick比率 > 80%)
and (価格がAsk側に過剰に張り付く)
and (スプレッド拡大)
→ ショートエントリー
利益目標:スプレッドの中央値
損切り:さらに拡大した場合
5. よく使われる指標・数式
① Tick Imbalance
TI=TotalTicksBuyTicks−SellTicks
一定閾値(例:±0.6)を超えると歪みと判断。
② Microprice
Microprice=BidSize+AskSizeAsk×BidSize+Bid×AskSize
- 現在価格がMicropriceから乖離 → 反転期待
③ Z-score(平均回帰)
Z=σSpread−μ
Z > 2 → 逆張り候補
6. エントリーとエグジット
エントリー条件(例)
- ティックインバランス極端
- スプレッドが統計的に異常
- 板が一時的に薄い
エグジット
- スプレッドが平均に回帰
- ティックフローが中立化
- 時間制限(例:3〜10秒)
7. メリット・デメリット
メリット
✅ 勝率が高くなりやすい
✅ マーケットニュートラル
✅ トレンドに依存しない
デメリット
❌ 超低レイテンシ環境が有利
❌ 手数料・スリッページに弱い
❌ レンジ崩壊時に連敗しやすい
8. 向いている市場
- 日経225先物(ラージ / ミニ)
- CME先物(ES, NQ)
- FX(EUR/USD)
- 暗号資産(BTC, ETH の高流動性時間帯)
9. 実装レベル別の難易度
| レベル | 内容 |
|---|---|
| 初級 | ティック数ベースの逆張り |
| 中級 | 板厚 + Microprice |
| 上級 | Order Flow + 確率モデル |
| プロ | HFT + Queue Position |
10. よくある失敗
- トレンド発生中に逆張り
- ニュース直後に使う
- スプレッド拡大の「理由」を無視
11. 改良アイデア
- ボラティリティフィルター
- 時間帯フィルター
- 板復元速度(refill rate)
- 機械学習による反転確率推定
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