以下では、「オプション IV スプレッド結合(IV Spread + Spot Spread)」
つまり、
インプライド・ボラティリティ(IV)のスプレッドと、スポット価格のスプレッドを統合(結合)した裁定・アルファ抽出手法
を、プロップ / クオンツ運用の文脈で体系的に解説します。
◆ ✔ 概要:IV スプレッドとスポット・スプレッドの“二層裁定”
IV Spread + Spot Spread =
「オプション市場と現物市場の2つの歪みを同時に使う複合裁定」
FXや指数オプション、コモディティなどで用いられる高度手法で、
● スポット市場の歪み(価格差)
● オプション市場の歪み(IV差)
この 2つの非効率を同時に狙ってヘッジ一体で仕掛ける のがポイント。
◆ ✔ なぜ「結合」するのか?
理由はシンプル:
✔ スポットだけ(ペアトレード)では弱い
→ トレンド相場で破壊される
→ ボラ上昇局面でスプレッドが開き続ける
✔ IVだけ(ボラ裁定)でも不十分
→ IVだけ下がる/上がる局面では方向性リスクが残る
→ スポットとの関係性が崩れることがある(ボラ・スポット相関)
✔ 両者を結合するとメチャクチャ安定する
- スポットの歪み
- オプション IV の歪み
の 同時解消プロセス(Joint Reversion) を利用できるため
リスクを最小化してアルファ取得が可能になる。
◆ ✔ 構造:2つのスプレッドを組み合わせる
■ 1. Spot Spread(スポット価格差)
例:
EURJPY – β · USDJPY
XAUUSD – β · XAGUSD
BTC – ETH
指数のペア(SPX – NDX 等)
■ 2. IV Spread(Implied Volatility Spread)
同じペアでの IV の差を観測する:
例:
IV(EURJPY) – γ · IV(USDJPY)
or
VIX – VXN(SPX vs NASDAQ)
GVZ – OVX(金 vs 原油)
■ 3. 両者を“結合”した裁定を行う
代表的な式(クオンツがよく使う形):CombinedSpreadt=a⋅SpotSpreadt+b⋅IVSpreadt
これを Z-score・Kalman Filter などで正規化する。
◆ ✔ 結合裁定の基本ロジック
強力なポイントは:
● スポットが広がっているのに
IV が正常 → トレンドの可能性が高い → 裁定を避ける
● スポットが広がり
IV も“過剰に”広がっている →
平均回帰の確率が極端に高い → 裁定実行
● スポットは狭いのに
IV だけ異常に動いた →
**IV の逆張り(ボラ裁定)**が成立
これを 同時評価 するのが「結合」戦略。
◆ ✔ どのように結合するのか?(3つの代表モデル)
◆ モデル①:条件付きフィルタ(Conditional)
Entry=(∣Zspot∣>Zth)AND(∣ZIV∣>Zth,IV)
→ 両方が同時に歪んでいるときだけ入る
→ “勝ち場面だけ”を抽出できる
◆ モデル②:線形結合(Linear Combination)
CSt=a⋅Zspot,t+b⋅ZIV,t
Kalman Filter や PCA を使って a,b を決定し、
複合スプレッドとして扱う。
→ 市場状態に応じて「IVの比重」が変化するため強い。
◆ モデル③:Regime Switching(HMM, Markov)
- 高ボラ regime ⇒ IV を重視
- 低ボラ regime ⇒ Spot を重視
- トレンド regime ⇒ 出力を抑制
- レンジ regime ⇒ 回帰を強める
→ 最強の運用向けモデル
◆ ✔ 実際に機能する理由(メカニズム)
■ 1. オプション市場は“先に反応する”
IV が先走ることで
スポットの平均回帰の予兆を示すことがある。
→ IV の歪みは、スポットの歪みより信頼度が高い
■ 2. スポットとIVの相関構造を利用できる
FX・株式・コモディティでは:
- 価格上昇 → IV 下落
- 価格下落 → IV 上昇
の“レバレッジ効果”があるため、
その関係が壊れた瞬間に 裁定機会が発生。
■ 3. スポットだけ・IVだけの裁定よりドローダウンが浅い
→ 結合するとリスクが劇的に減る
→ 特に暴落局面では、IVが異常に動くため逆に裁定が安定する
◆ ✔ 実例:FXのIVスプレッド結合裁定
● 例:EUR/JPY と USD/JPY を使う場合
- Spot Spread:
St=EURJPY−β⋅USDJPY - IV Spread:
IVt=IV(EURJPY)−γ⋅IV(USDJPY) - 結合スプレッド:
CSt=aSt+bIVt
- Z-score(またはKalman)で正規化
- CS が +z 以上 → ショート
CS が -z 以下 → ロング - CS→0 で決済
◆ ✔ メリット(プロ向け)
- 単独のペアトレードより勝率が高い
- トレンドによる破壊を避けられる
- IVの異常を検知して逆行リスクを減らせる
- 市場構造変化(Regime Shift)に強い
- 非常に安定した Sharpe Ratio を作れる
◆ ✔ デメリット(注意点)
- オプションIVのデータ入手が難しい
- 係数 a,b,β,γ の推定が高度
- 市場ごとに IV の特性が違う(FXは特に癖が強い)
- 取引コスト・スリッページに弱い戦略構造もある


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