IFC Marketsの合成商品 × 相関スプレッド逆張り(ベータペアトレード)について

以下では、
「合成商品 × 相関スプレッド逆張り(ベータ・ペアトレード)」
を “実務のクオンツ手法” として、
数学的な仕組み → 特徴量 → 売買ルール → リスク管理 → 実装レベル
まで体系的に、わかりやすく解説します。


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目次

■ 1. 戦略の概念(ひと言で)

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**2つの商品 A・B の“関係性(相関 × β関係)” が一時的に崩れたとき、

合成スプレッドが平均に回帰する性質を利用して逆張りを取る戦略。**

  • 合成商品: C = A − βB
  • 相関が高いほどスプレッドの平均回帰が強い
  • 乖離(スプレッド偏差)が大きいほどエッジが大きい
  • β(ベータ)で「ノイズ」と「トレンド偏り」を除去できる

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■ 2. 「ベータ・ペアトレード」の核心

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2つの商品 A(メイン)B(ヘッジ)
線形回帰モデル:

A_t = α + β × B_t + ε_t

ここで、

  • β:AとBの“動きの比率”(ヘッジ比率)
  • ε:残差(=スプレッド)
  • この ε が 平均回帰プロセス(Ornstein–Uhlenbeck的) を持つ

つまり:

(A−βB)が平均から離れたら戻る可能性が強い → 逆張りするだけで期待値が発生


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■ 3. 合成商品(スプレッド)の作り方

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■① 価格ベースのスプレッド

Spread_t = A_t − βB_t

■② リターンベース(リスク正規化)

r_spread_t = rA_t − β rB_t

■③ Zスコア(平均回帰シグナル)

ローリング平均と標準偏差を用いて:

Z_t = (Spread_t − μ) / σ

Z値が大きいほど乖離が強い。


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■ 4. 逆張りシグナルの作り方(標準)

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■(1)Z値が +2 以上

→ スプレッドが上方乖離
ショート(A売り − βB買い)

■(2)Z値が −2 以下

→ 下方乖離
ロング(A買い − βB売り)

■(3)Zが 0〜±0.5 に接近

→ 利確(平均回帰ポイント)


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■ 5. β(ロット比)の計算方法

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βの推定方法は3段階:


■① 回帰分析(OLS β)

最も一般的なヘッジ比率。

β = Cov(A,B) / Var(B)

または線形回帰そのまま。


■② ボラ比(ATR比)

簡易・ローバランスなβ。

β = ATR(A) / ATR(B)

■③ 相関補正付き β(最も実務的)

β = (ATR(A) / ATR(B)) × Corr(A,B)

👉 相関が 1 に近いほどヘッジが強く、
0 に近いほど「ヘッジ不要 → βが小さく」なる。


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■ 6. スプレッドの平均回帰を測定する指標

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✔ ① Hurst指数

0〜0.5 なら平均回帰性が強い(良いペア)

✔ ② ADF検定(単位根検定)

残差が「定常」なら、平均回帰が成立しやすい

✔ ③ 半減期(Half-life)

平均回帰にかかる時間を計算

短い → スキャル向き  
長い → スイング向き

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■ 7. どんなペアが強い?

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◎ 最強候補

  • NAS100 × US30
  • NAS100 × SPX500
    (株価指数同士。回帰構造が非常に安定)

◎ FX系の鉄板

  • EURUSD × GBPUSD(EURGBP合成)
  • AUDUSD × NZDUSD(オセアニアアービトラージ)

◎ XAUUSD × USDJPY

“円建てゴールド” が作れる
→ 実質ノイズが激減する


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■ 8. エントリールール(実務ロジック)

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▼ ロング(下方乖離)

if Z_t < -Z_entry:
    Long A
    Short βB

▼ ショート(上方乖離)

if Z_t > +Z_entry:
    Short A
    Long βB

一般的なZ_entryは ±2
スキャルは1.5、長期は2.5以上。


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■ 9. イグジット(利確・損切り)

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利確

Z_t → 0~±0.5 接触

損切り

Z_t がエントリー方向に進み ±3〜4 到達

保有期間

  • スキャル:数分〜30分
  • デイトレ:1〜5時間
  • スイング:当日〜数日

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■ 10. 実際の合成チャートの特徴

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合成チャートは

  • ヒゲが少ない
  • トレンドが弱い
  • レンジ中心
  • ダマシが少ない
  • 約定ノイズが大幅に低減

という性質が出るため、

👉 スキャルピング(逆張り)向けの“理想チャート”が作れる。


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■ 11. スプレッド(取引コスト)の扱い

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固定スプレッドのヘッジが可能

(前の質問の内容と連動)

合成スプレッド:

実SP = SP_A + |β| SP_B

βを調整すれば
実質スプレッドを最小化できる
= 儲かる確率が上がる。


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■ 12. Python 実装ミニコード

(β推定 → Zスプレッド生成)

import pandas as pd
import numpy as np
from sklearn.linear_model import LinearRegression

# A,Bの価格データ (DataFrame)
A = df['A'].values.reshape(-1,1)
B = df['B'].values.reshape(-1,1)

# β推定(回帰)
reg = LinearRegression().fit(B, A)
beta = reg.coef_[0][0]

# スプレッド
spread = df['A'] - beta * df['B']

# Zスコア
win = 200
mu = spread.rolling(win).mean()
sigma = spread.rolling(win).std()
z = (spread - mu) / sigma

df['spread'] = spread
df['z'] = z

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■ 13. この戦略の強み

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  • トレンド読み不要
  • ニュースに強い(片側の暴れをヘッジ)
  • FX/株式/金のどれでも使える
  • 小利スキャルと相性抜群
  • 平均回帰構造が安定していれば
    機械的に勝率が高い

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■ 14. 弱点(注意ポイント)

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  • 相関崩壊時にドローダウン大
  • βが時間とともに変動する
  • 乖離が戻らない“Regime Shift”
  • トレンド相場では逆張りが続けて焼ける
  • イベント時は回避が必要(CPI,FOMC)

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■ 15. まとめ(本質)

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**合成商品 × 相関スプレッド逆張り(βペアトレード)**とは:


▶ 合成した“スプレッド”に対して

▶ 平均回帰性を利用し

▶ β(ロット比)でノイズを完全に取り除き

▶ 大きな乖離で逆張りして確率優位を得る


プロップのクオンツが最も使う
「低リスク × 高勝率 × 構造的エッジ」
を持つ戦略です。

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