「ペアトレード/相関乖離補正型戦略(Statistical Arbitrage)」は、
リスクを抑えながら“価格の歪み”を狙って利益を得る、
プロップトレーダーやヘッジファンドでも使われる統計的裁定戦略の代表格です。
短期トレンドフォローやブレイク戦略とは異なり、
「2つの相関資産の関係性(スプレッド)」を売買するのが特徴です。

🧭 基本コンセプト
2つの相関性が高い銘柄(または通貨ペア)の価格関係が一時的に乖離したときに、
乖離が平均に戻る(=平均回帰)動きを狙って仕掛ける戦略。
- AとBが普段「一緒に動く」のに、
どちらかが“行き過ぎた”ときに、
高い方を売り・安い方を買う(ロング&ショート)。 - 乖離が元に戻ったら、両方を決済して利益確定。
👉 この「相関乖離補正(Mean Reversion)」が核です。
📊 戦略イメージ(基本構造)
価格
↑
A銘柄(上に行き過ぎ)
|
平均関係(A-B)
|
B銘柄(下に行き過ぎ)
↓
→ 平均に戻る動き(乖離補正)を狙う
⚙️ 戦略構築ステップ
① ペアの選定(相関性の確認)
まず、「普段は一緒に動くペア」を探します。
相関係数(correlation coefficient)で判断します。
| 市場 | ペア例 | 備考 |
|---|---|---|
| FX | EUR/USD ↔ GBP/USD、AUD/USD ↔ NZD/USD | 通貨構成が似ている |
| 株式 | トヨタ ↔ ホンダ、三菱UFJ ↔ 三井住友 | 同業種・同セクター |
| 指数 | 日経225 ↔ TOPIX、NASDAQ ↔ S&P500 | 市場全体の代表 |
| 商品 | 金 ↔ 銀、原油 ↔ エネルギーETF | 類似需要要因 |
相関係数 ρ ≧ 0.8 が理想的です。
(TradingViewやPythonなどで簡単に算出可能)
② スプレッド(価格差)の算出
2つの銘柄A・Bの価格差を計算します: St=PA−βPBS_t = P_A – β P_BSt=PA−βPB
- StS_tSt:スプレッド(価格差)
- βββ:回帰係数(単回帰分析で求める)
βは「AがBに対してどれくらい連動するか」の係数です。
単純に価格比率で取ってもOK(例:A/B 比)。
③ 平均回帰の判断(Zスコアの利用)
スプレッドが平均からどれくらい離れているかを標準化します。 Zt=St−μSσSZ_t = \frac{S_t – μ_S}{σ_S}Zt=σSSt−μS
| Zスコア | 状態 | アクション |
|---|---|---|
| 0〜±1 | 通常(ノートレード) | 様子見 |
| ±1〜±2 | 軽い乖離 | 監視開始 |
| ±2以上 | 有意な乖離 | トレードチャンス! |
👉 統計的に「Z=±2以上」は5%以下の確率。
→ つまり「異常な乖離=いずれ戻る可能性が高い」。
④ エントリー/エグジットルール
| 条件 | アクション |
|---|---|
| Z ≥ +2 | Aをショート・Bをロング(上に行き過ぎ) |
| Z ≤ -2 | Aをロング・Bをショート(下に行き過ぎ) |
| Z → 0(平均回帰) | 両方クローズ(利益確定) |
| Zがさらに拡大(±3以上) | ロスカット(異常乖離) |
⑤ ポジションサイズの調整(ヘッジ比 β)
βを考慮してポジションバランスを取ります。 Position Ratio=1:β\text{Position Ratio} = 1 : βPosition Ratio=1:β
例:
- β = 0.8 なら、Aに1ロット、Bに0.8ロット
→ これで**ドルベースのリスク中立(マーケットニュートラル)**に近づく。
📈 実例(FX:EUR/USD vs GBP/USD)
1️⃣ 相関係数 ρ = 0.91(非常に高い)
2️⃣ ある日、EUR/USDが急上昇・GBP/USDが横ばい
3️⃣ スプレッドがZ=+2.3(上方向乖離)
4️⃣ エントリー:EUR/USDをショート、GBP/USDをロング
5️⃣ 数時間後、Z=0.5に回帰 → 両方決済
→ 利益:約+40pips相当(低リスクで安定)
📊 テクニカル応用(Zスコア+移動平均)
| 指標 | 用途 |
|---|---|
| Zスコア(20期間) | 乖離度の指標(トレードトリガー) |
| 移動平均線(スプレッド用) | 平均値 μ_S の基準 |
| ボリンジャーバンド | ±2σラインを視覚化 |
| ADX(任意) | トレンド相場ではエントリーを避ける |
👉 “トレンド中”よりも“レンジ/平均回帰型の市場”に適しています。
⚠️ 注意点とリスク管理
| リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 相関崩壊リスク | 経済政策やニュースで関係性が変化 | 定期的に相関係数を再計算 |
| β推定誤差 | 市場構造の変化 | 直近期間(20〜60日)で再推定 |
| 乖離の拡大(ロスカット遅れ) | 平均回帰せず広がる | Z≥3で強制カット/ポジション制限 |
| 資金拘束・手数料 | 両建てでコスト増 | スプレッドの狭いペアを選定 |
| トレンド発生時の逆行 | 一方向相場では破綻 | ADX > 25なら取引回避 |
💰 応用①:ロング・ショート強度の最適化
スプレッドのトレンド成分を削除するために回帰残差を使う方法もあります。 PA=α+βPB+εtP_A = α + βP_B + ε_tPA=α+βPB+εt
→ ε_t が“純粋な乖離成分”として使えます。
ε_t のZスコアでトリガーを決めると、より安定したシグナルになります。
💰 応用②:複数ペアの分散型ポートフォリオ(Stat-Arb)
同時に3〜5ペア程度を運用して、
- 一部が損でも、他の平均回帰で補う
→ ポートフォリオ全体で安定収益化。
📈 “トレンド戦略と逆相関”になりやすく、
相場全体のヘッジにも最適です。
📘 戦略まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 戦略名 | ペアトレード/相関乖離補正型戦略 |
| タイプ | 統計的裁定(Statistical Arbitrage) |
| エントリー条件 | 相関性高(ρ≥0.8)+Zスコア±2超 |
| 決済条件 | Z→0(平均回帰)または±3超(損切り) |
| ポジション構造 | Aショート+Bロング(または逆) |
| 強み | マーケットニュートラル・低リスク安定型 |
| 弱点 | トレンド発生時の相関崩壊 |
| 適性 | FX、株、ETF、コモディティすべて対応 |
| RR目安 | 1:1.5〜1:2(高勝率型) |
💬 まとめ
✅ 相関の高いペアを選び、乖離が±2σを超えたら逆張り。
✅ ポジションはヘッジ比(β)でバランス。
✅ 平均回帰で利確、乖離拡大で損切り。
✅ 市場中立の安定運用が可能。






